捨印にはご注意を（２０１４／６／１１）

今回は「捨印」についてお話してみたいと思います。

「捨印」とは、契約書などの書類の余白に押す印鑑のことであり、契約を結ぶ際にはかなりの割合で要求されます。 （私も依頼者の方にはお願いしています）

では、なぜ捨印を押すことを要求されるのでしょう。

原則として、契約書に誤りが発覚した場合、契約者が誤った部分に横線を引いて印鑑を押し、その横に正しい内容を書くことで有効な訂正となります。

すなわち、訂正をするためには契約者が印鑑を持ってその場にいることが必要なのです。

しかし、後日書類の誤りが発覚することもあり、その度にいちいち契約者に押印して訂正して貰うとなると、時間的または経済的な負担が大きくなることもあります。（契約者が遠方の場合や急を要する場合など）

そこで、考えられたのが「捨印」です。
書類の余白に予め捨印を押しておくことで、その後に誤りがあったとしても、捨印の横に「〇字削除　〇字加入」と書くことにより、本人がいなくても訂正が有効にできます。

つまり、書類に訂正があった場合においても、契約の履行をスムーズにし契約者の負担を軽くするために捨印を押すことを要求されるのです。

これだけ聞くと便利なシステムと思われますが、捨印を押すということは
「後日誤りがあった場合は、そちらで勝手に訂正して貰って構わないよ」
と言っているのと同じことなのです。

勝手に訂正できるとなると「捨印を押した書類を預かれば後で訂正したい放題じゃん！１０万円の借用書を１００万円に訂正してやるぜ！」と考える人もいるかもしれません。

しかし、昭和５３年１０月６日に最高裁判所が出した判決があります。
それを要約すると「捨印があるからと言ってなんでもかんでも訂正できるわけではない」と言っており、さすがにそんな無茶はとおりません。（無茶というか犯罪になる可能性も高いですし・・・）

「それでは何が訂正でき、何が訂正できないの？」というもっともな疑問が浮かぶと思いますが、これに関しては明確な回答が無いのが現状です。
ただし、現在はより厳しく解釈されており、金額の訂正や契約者の変更（＝契約者自体を別人にする）など契約の主要部分の訂正については捨印ではできず、誤字・書き損じのみ訂正できると言われております。

それでも、第三者にどのような訂正がされるかわからないので、捨印を押す際はその書類を渡す相手や書類の内容などには十分に注意しましょう。


書類に捨印を押す際に不安な場合のアドバイスとしては
『捨印を押す場合はその書類のコピーを取る』

コピー機が無ければ携帯の写メでも構いません。 コピーがあることで、後日自分に不利な訂正がされていても、その訂正は知らないと主張できます。

また、コピーを取りたいと言ってもしも相手が渋るようであれば、捨印は押さないほうがよいでしょう。 （むしろ契約自体も再考すべきだと思います）
コピーが手間なのはわかりますが、渋るほどではありません。

もし私であれば、それで依頼者の方が安心してくださるならと喜んでコピーをとっていただきます。