民事信託そのA
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前回の続きになります。
前回では、民事信託の登場人物(委託者・受託者・受益者)について説明しました。
今回は、その3人が同一人物が兼ねることができるのか又は複数でもよいのかという質問もよくあります。
1つずつパターンに当てはめてみていきましょう。
まずは、委託者・受託者・受益者がそれぞれ別人で1人づついます。
まさに信託法が定める基本のパターンですね。
次に、委託者と受益者が同一人物のパターンです。
俗に自益信託と呼ばれこの場合の登場人物は3人ではなく2人になります。
具体的には、信託銀行の扱う金融商品としてよく知られています。 日本の高度成長期において信託銀行はダム建設や鉄道事業や鉄鋼の高炉建設など、長期的な資金を貸し付けるため、資金を調達しました。
この商品が「貸付信託」と呼ばれる商品です。 この場合、委託者である投資家は、受託者である信託銀行から商品を買う形で金銭(仮に100万円とする)を信託し、数年間配当を受取り、最後は信託財産である100万円の返還を受けます。
この例でわかるとおり、金銭の投資や運用の手段として、言い換えれば金融商品として、信託銀行お受託者とする自益信託は一般的に広く利用されています。
また、このパターンは家族信託でも広く利用されています。 例えば、収益物件を所有する委託者が高齢で、その管理が重荷になってきました。 そこで、財産管理の実務を子にさせて、そこから発生する収益は自己の生活のために受け取ることを考えた所有者は、自己を受益者とする信託契約を子と締結し、自分で管理していた財産を子に信託し、信託財産として所有権の移転を行いました。
通常なら普通に管理を委託か委任すればいいのですが、敢えて信託にしたのには大きな意味があります。
最近の超高齢化社会では、認知症の不安が大きく、万が一高齢の所有者が認知症になった場合、単に管理の委託を受けた者ではその処分や修繕の契約ができない可能性があり、そのために成年後見制度を利用しなければならなくなるかもしれません。
ご存知のとおり成年後見制度は申立も煩雑で時間がかかること、不動産の修繕など多額の費用の支出にはいちいち家庭裁判所の許可が必要となることがあること、そもそも後見人に許された職務権限は財産の保全と管理」に限られているなど、様々な問題点があります。
しかし、収益物件及びある程度の金銭を受託者に信託しておけば、委託者が認知症になっても適切な管理・運用・処分・修繕がなされることになります。
このように民事信託の中ではとてもよく使われる形態です。
次に委託者と受託者が同一人物のパターンです 自己信託又は信託宣言と呼ばれます。 自分の財産につき、「これは自分の固有の財産から切り離して「信託財産にします」と宣言することによって信託を行います。これは必ず公正証書で行う必要があります。 この信託は、以前はできず近年の改正によってできるようになりました。
次に、共同委託と呼ばれるもので、委託者が複数いるパターンです。 例としては、兄弟で共有の不動産を委託するや投資ファンドが不特定多数の方に金融商品を販売します。
そのように集められた金銭は、1つのファンドとしてまとめられ投資用の基金となり、受託者によって合同運用されます。 投資の対象が有価証券であれば、証券投資信託。賃貸用不動産であれば不動産投資信託になります
次に、共同受託と呼ばれるもので、受託者が複数いるパターンです。 年金基金のような非常に多額の資金の運用を信託で行う場合、受託者となる信託銀行を1行のみにするのではなく、複数行にすることがあります。
共同受託の場合、信託財産は複数の受託者の「合有」となります。合有とは複数の者で1つの財産を所有する法的に定められたやり方の1つであり、共有と異なり持分がありません。
合有では、複数の所有者が信託財産の全てに渡って所有権(所有により生じる権利と義務)を持ちます。
また、家族信託で共同受託を行うケースもあります。例えば個人が受託者となる場合、事故などで受託者が死亡してしまうリスクがあり、そのリスクを回避する方法の一つとして、 予め受託者を複数にしておき、仮に複数の受託者のうち1人が死亡したとしても信託に支障が生じることなく継続するようにしておきます。
最後に受益者が複数いる場合とはどのような場合でしょうか。 主に、受益権を多数に分割して、投資家に販売するケースが考えられます。
例えば、非常に大きな高額の不動産の所有者がこれを信託業者に託します。 そして信託業者から受益権を受け取ります。 ここまでは普通の自益信託です。
ここからは、委託者兼受益者は、自己の受益権を証券化して販売してその現金を得ます。